織物傘の組み立て vol.3 中縫い

槙田商店は、織物の製造から傘の組み立てまでを一貫して行う、世界で唯一の織物工場です。傘を手掛け始めた昭和30年頃から、今日まで作り続けてきました。傘作りの話をするとき「作り方を初めて知った」「手作りとは思わなかった」とのお声を多く耳にします。

そこで、織物から傘が出来上がるまでを工程ごとにご紹介していきます!

傘は、織り上がった織物に、防水・撥水加工を始めとした加工などを施します。そうして出来上がった生地は、裁断・透き見(すきみ)・中縫い・紐付け・中綴じ・仕上げの工程を経て傘になります。裁断し、傷などの確認作業である透き見を行った小間(コマ・三角の生地)は、いよいよ「縫い」の工程へと移ります。今回は「中縫い」についてご紹介致します。


織物の特徴と傘の曲線を活かす工夫
「中縫い」は、1枚1枚だった小間(三角形に切り取った織物)を繋ぎ合わせる大事な工程です。通常のミシンは、しっかりと固定するために、上糸と下糸の2本の糸で縫いますよね。しかし、中縫いで使われる専用のミシンは、上糸のみなのです。その理由は、生地の伸縮性にあります。傘生地をミシンで縫う様子
通常のミシンで縫ってしまうと、生地同士が固定されすぎてしまいます。その結果、伸縮性が発揮されず、上手く骨に張ることができません。それどころか、張りに耐えられず糸が切れてしまいます。そこで、傘の縫製には、上糸のみのミシンが使われるようになりました。

ちなみに、みなさんがお使いになられている一般的な傘の骨は8本です。その場合、1本の傘に対して8枚の小間が必要になります。縫製手順としては、まずは2枚1セットにして重ねて、縫い目が外側に出ないよう、生地の表同士が内側に来るようにして縫います。ふたたび2枚1セットを作り、今度はこれらを重ねて4枚にします。こうした手順を繰り返し、最終的に8枚を縫い合わせて円形状にします。この円形状のものを「カバー」と呼びます。傘を広げた時の美しい曲線は、こうした縫製手順や職人の小さな工夫によって生まれています。


仕上がりを左右する数ミリの調整力
中縫いも、非常に繊細さを伴う工程です。まず、縫い始める箇所に針を落とします。実は、この針の位置がとても重要なポイントです。傘生地にミシンの針を落とす様子
針を落とす部分の、明るい銀色の円形パーツがありますよね。この外周を「外丸(そとまる)」と呼びます。その中に黒く小さい穴があります。上の写真だと、針の右斜め奥に見えている穴ですね。それを「中丸(なかまる)」と言います。基本的には、小間の頂角を外丸のラインに合わせ、それを基準として針を落とします。
縫い合わせた傘生地
ここで縫い上がった頂角の内側部分をご覧ください。まるで花びらみたいですよね。中心の穴に骨を通すのですが、この穴の大きさは針を落とす位置によって決まります。針を落とす位置が重要な理由は、このため。では、なぜ穴の大きさを調整するかというと、傘によって使う骨が違うからです。その骨に適した大きさでないと、後の工程でシワが出来てしまったり、使用上の不備が生じてしまいます。それを防ぐために、使用する骨に適した大きさの穴にする必要があるのです。

傘生地をミシンで縫う様子
針の位置の調整は数ミリ単位。穴の大きさは「小・中・大」の3種類があります。小は外丸のラインちょうど、中は外丸+1㎜、大は外丸+2㎜といった具合です。針を落とす位置を「落とし」といい、この指示は裁断担当の職人が出します。初めて傘にする生地はもちろんこの調整が必要ですが、そうでない場合は裁断に使う木型によって、落としが決まっています。そして実際に縫う幅は4~5㎜ほど。このわずかな幅を手際よく縫っていきます。気を付けていることは「縫い返しをしない」こと。やわらかい生地だとボロボロになってしまい、新しい生地と交換しなければならなくなります。

ちなみにこの縫う幅を作り出しているパーツは「ラッパ」と呼ばれ、かつての職人による手作りです。今やこうしたパーツやミシンは作り手がいません。すでに数十年と現役ですが、これからも大切に使い続けたいですね。


いかがだったでしょうか。傘ができるまでには、実に多くの工程と人の手が必要です。
私達が丹精込めて1本ずつ作り上げた傘がどのように生み出されているかを丁寧にお伝えすることで、みなさんが手にしてくださった傘を特別な気持ちで大切にお使いいただければ嬉しいです。第3回は「中縫い」についてご紹介しました。次回は「紐付け」についてご紹介していきます。ぜひお楽しみに!


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