織物傘の組み立て vol.4 紐付け

槙田商店は、織物の製造から傘の組み立てまでを一貫して行う、世界で唯一の織物工場です。傘を手掛け始めた昭和30年頃から、今日まで作り続けてきました。傘作りの話をするとき「作り方を初めて知った」「手作りとは思わなかった」とのお声を多く耳にします。

そこで、織物から傘が出来上がるまでを工程ごとにご紹介していきます!

傘は、織り上がった織物に、防水・撥水加工を始めとした加工などを施します。そうして出来上がった生地は、裁断・透き見(すきみ)・中縫い・紐付け・中綴じ・仕上げの工程を経て傘になります。繋ぎ合わせて1枚の円状になった生地に、傘を閉じるための紐を付けていきます。第4回となる今回は「紐付け」についてご紹介致します。傘が並ぶ様子
傘を閉じる際、何気なく使っている紐(バンド、ネームバンドと呼びます)ですが、これにはいくつものこだわりと手間がかけられています。


手作業によって生まれ変わる生地
まず、紐の作り方からご紹介します。紐の材料となる生地は、傷や汚れがないかを確認する「透き見」で、残念ながら傘にできないと判断された「傷小間(キズコマ)」です。キズコマは、紐をはじめとした「付属」と呼ばれるパーツに生まれ変わります。カットされた傘生地
細長い長方形にカットしたキズコマの短辺を重ねていきます。このとき、表に出したい面を上にし、さらに左側の生地が上に来るようにします。傘生地をミシンで縫う様子
重ねた部分を縫っていくので、実際には生地を重ねる作業と、縫う作業は同時に行われます。写真のように蛇腹状にできたら、生地と生地の間にある糸をカットしていきます。そうすると、1本の長い紐状になります。この長い紐状のものを縫っていくのですが、ここで前回の中縫いでも登場した「ラッパ」の出番です。
傘生地をミシンで縫う様子
ラッパを通って出てくる生地は、筒状になるので、開いている方を縫って閉じていきます。縫い終わったら、ラッパを外した通常のミシンでもう片方を縫います。こうして縫い上がったものを、最初に短辺を重ね合わせて縫った部分に沿ってカットすると、紐が出来ます。

まだ完成ではありません。今度は、留めるためのボタン(ホックと呼びます)を付けていきます。専用の工具で穴を開け、そこにホックを取り付けていきます。ボタン付けの様子
写真の左側は穴を開ける様子です。工具を生地に刺し、木槌で叩いて穴を開けます。右側はホックを付けた様子です。開けた穴をホックのパーツで挟み、ホック用の工具を被せて木槌で叩いて固定します。ホックの取り付けには、別の道具を使う場合もありますが、ひとつひとつ手作業で行われています。傘のネームバンド
一口に「紐」と言っても、すべて同じというわけではありません。例えば、紐の幅も、大・中・小の種類があります。紐の幅を決めるラッパにももちろん、大・中・小のサイズがあり、そのつど使い分けています。ホック自体も色や、ロゴの有無など多種多様。また、ホックの位置や紐の長さも、傘によって変わっていきます。こうした細かい作業を組み合わせて、1本の「紐」が出来上がります。


使う人を考えてそれぞれの傘に合わせた工夫
長傘と折りたたみ傘で対比させながら、傘に紐を縫い付ける「紐付け」の様子をご紹介します。(ここでいう折りたたみ傘には、トップレスタイプは含まれません)
傘を閉じたとき、長傘は表面が外側に来ますよね。対して、折りたたみ傘は内面が外側に出ます。この「どちらの面が外側に来るか」によって、紐そのものや、紐付けに違いが出てくるのです。傘のタイプ別のネームバンド
写真は「絵おり 大バラ 紺」の長傘(左)と、折りたたみ傘(右)です。傘となじむように外側に出る面の色に合わせた紐を作るため、同じ傘でも紐の色が違います。この理由で、折りたたみ傘の袋の場合だと、長傘と同じ色の紐が用いられます。

紐付けの様子
小間(三角形に切り取った織物)を繋ぎ合わせて円形状にしたものを「カバー」と呼びます。これを半円にたたみ紐付けを行いますが、カバーを置く向きが長傘は「反転したD」の形、折りたたみ傘は「D」の形になるようにします。この向きにすることで、それぞれ表面、内面に縫い付けやすくなるのです。

さらにこのときのカバーには、槇田商店のタグがついているのですが、タグが手前に来るように置きます。そうすると、差したときに紐が後ろに来るため、視界の邪魔にならないという工夫もなされています。ただ縫い付ければいいというわけでなく、傘によって縫い付ける位置やサイズが違ったり、柄が少ない箇所を選んだりするため、集中力を切らさぬよう紐付け作業をしています。


何気なく使っている紐にも、こうした様々な工夫や手間がかけられています。
今回、ご紹介しきれなかったキズコマから作れるそのほかの「付属」や、折りたたみ傘の袋作りなどは、またの機会にご紹介できればと思います。

いかがだったでしょうか。傘ができるまでには、実に多くの工程と人の手が必要です。
私達が丹精込めて1本ずつ作り上げた傘がどのように生み出されているかを丁寧にお伝えすることで、みなさんが手にしてくださった傘を特別な気持ちで大切にお使いいただければ嬉しいです。第4回は「紐付け」についてご紹介しました。次回は「中綴じ」についてご紹介していきます。ぜひお楽しみに!


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