傘の撥水機能を復活させる方法

私たち、槙田商店の職人たちは、毎日傘を作り続けています。自分たちが作っているからこそ知っている「良い傘を長くご愛用いただくためのコツ」として、今回は撥水機能を復活させる方法についてお伝えします。ぜひ参考になれば幸いです!

傘生地に施された2種類の加工 ~撥水と防水~

前提として、傘生地には一般的に「撥水」と「防水」加工が施されています。(ビニール傘は除きます)防水と撥水は間違えやすいので、まずはその説明から始めていきます。

「撥水」加工では多くの場合、フッ素を用いて、傘に撥水性をもたせます。要は、生地に水が付いた時に水滴になってコロコロ転がる状態にすることです。フッ素には、蓮の葉効果と同じような機能があり、繊維が水に濡れるのを防ぐのです。(※蓮の葉は、無数の突起微細構造と水の表面張力により、水を水滴化して濡れることを防ぎます。とても細かい大量の突起で水滴を支えているイメージですね)
撥水加工された生地
(使用生地:kirie ドットフラワー アメジスト)

こんな感じ、コロコロ

一方の「防水」加工は、多くはアクリル樹脂を用いて、生地の裏面に薄くコーティングすることで織目の目止めをします。こちらは、織り目による細かい隙間を、樹脂で埋めるイメージです。先染めの織組織(織り方のことです)を活かした織物というのは、織り目が複雑だったり、凹凸があったりします。この織物に対して綺麗に平らなコーティングをかけるというのは、実はとても難易度が高い作業なのですが、それをいとも簡単にやってのけるこの産地の整理屋さんの技術は、本当に素晴らしいのです。(※生地の後加工屋さんのこと。生地を綺麗にしたり、後加工をする事を「整理」と呼びます。)


撥水機能を復活させる2つの対処法

さて、ここからが本題です。長く傘を使っていると、生地の水弾きが悪くなったと感じる方もいらっしゃると思います。実は、撥水加工そのものが落ちたわけではありません。上に書いたような「蓮の葉効果の突起物」が寝た状態になってしまっているのです。

この対処方法が、「フッ素の撥水加工に熱をかけること」です。熱を与えると、100%とまではいきませんが、感覚的には70%ぐらいの状態に復活してくれるのではないかと思います。なお、使用している状態や年数によって一概には言えませんのでご了承下さいね。

復活方法① ドライヤーを使う

まずはお手軽に試していただける、ドライヤーがおすすめです。生地から5cmほど離して、熱が行き渡るように、じっくりかけていただくとよいと思います。何分間ドライヤーをかければOK、という試験データを出していないので具体的な数値は申し上げられないのですが、とくに三角形の中心ラインは、よくかけていただけるとベターです。

復活方法② アイロンを使う

槙田商店で使うのは、アイロンです。写真は傘の仕上げのシワ取り作業の様子ですが、このような感じで熱を与えていきます。化繊で使用できる温度にセットし、傘の一小間(コマ・三角形の生地)ずつアイロンをかけていきます。(※温度調節が高すぎたりすると溶けてしまうので注意して下さい!)

アイロンの方は少し難易度が高いかと思いますので、まずはドライヤーからお試しいただくのがいいかもしれません。

織物の傘を長く愛用するコツ

ここからは傘生地屋として、あまり知られていないであろう注意点をお伝えします。それは「雨に濡れた生地には、極力触れないようにする」というもの。理由は、濡れた生地を手でこすると、撥水性が著しく低下してしまうからです。
濡れた傘をキレイにたたもうとして、雑巾を絞るように手でギュッとまとめて閉じてしまう場合があると思います。しかし、その行為で撥水効果が非常に悪くなってしまうのです。

これは傘生地屋として今まで生地で色々と試験をした経験則ですが、たとえ同じ生地であったとしても、乾いてる時の摩擦では何ともないのに、濡れた時に人の手でこすると撥水がとても悪くなってしまいます。人の手の脂分が、何らかの影響を与えているのかもしれませんね。

なので、濡れた傘をたたむときは、ネームバンド(大抵の傘に付いている、傘をたたむ際にまとめるホックやボタンつきのバンド)を持って、グルッとまとめるだけでOKです。そしてオフィスや家に帰った際に陰干しをして、水分をきちんと飛ばしてからたたんでください。そうすることで、撥水効果をより長持ちさせることができます。このたたみ方で濡れたまま放置してしまうと、変なシワが入ってしまったり、変な臭いがしたりするので、そこは注意が必要です。
傘を差す様子

 (使用アイテム:ノルディック 大枝 カーキ)


いかがでしたか?
愛着のある傘を、長く健康に使っていただければ幸いです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

お気に入りの傘を長く大切に使う。とても素敵なことですよね。
槙田商店では、婦人傘、紳士傘ともに豊富な種類をご用意。また、当店の傘を対象に、修理も承っておりますので「一生ものの傘」をぜひ見つけてみませんか?


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紳士傘イメージ




雨の日でも身だしなみは大切ですよね。スーツ姿にもぴったりな、「ビジネスシーンにおすすめの傘」をご紹介しています。

執筆者

槇田洋一

(株)槙田商店の6代目。横浜国立大学で経済学を学び、卒業後は修行を兼ねて社会経験を積む。2009年に槙田商店に入社し、自社ブランド「槇田商店」を立案。男性のための傘「MAKITA STANDARD」を産地の職人と共に企画するなど、産地の魅力を届ける製品開発を手掛けながら、産地を守る活動に勤しむ。